アクシィとキャティアの航海日誌

仮想世界のディレッタント、アクシィ・オーキドと、キャティア・イクストルの旅路の記録。「さあ、行こうか」今は、PSO2、シップ1(フェオ)を旅しています

【PSO2・航海日誌】【ショートストーリー】第三章 Encountering with a embarrassing memory in the Parking lot

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はじめに・・・(注意事項)

 

※この記事は、PSO2ファンタシースターオンライン2)の世界感に、著者:アクシィ・おーきどの独自見解、キャラクター設定などを組み込んだ二次創作になります。ゆえに、ファンタシースターオンライン2に登場する固有名詞、ストーリー、設定などの著作権は全て株式会社セガゲームスにあります

 

原作はあくまでPSO2ファンタシースターオンライン2)です。著者と読者様の間の原作に対する理解の相違、拙作の至らぬところなど感じられると思いますが、こちらに関しては、文責は著者:アクシィ・おーきどにあります

 

無断転載並びに再配布は固く禁止します

 

※おかしなSF考証や、つっこみなど、固有名詞がおかしいなど多々気づくと思いますが、こちらも、文責はすべてアクシィ・おーきどにあります(セガは関係ないってことですよ!

 

※登場人物

・アクシィ・オーキド:第一船団<フェオ>所属のアークス、キャスト、15歳

キャティア・イクストル:第一船団<フェオ>所属のアークス、ヒューマン、26歳

・シン・マクガイヤー:オラクル宇宙海軍第一艦隊所属の軍人、ヒューマン、28歳

・ソフィア・イビム:海軍技術大将、海軍研究事務所所長、種族、年齢は不明

 

では、本編は折りたたみます(本編約9,000文字)

 A.P.238 7月初旬 第一船団<フェオ>1番船 アークス専用メディカルセンター

 

 何度めかで発生した大規模な惑星リリーパの採掘基地防衛戦、今回もアクシィとキャティアは生還した。彼らにとっては今回も死線を一つくぐり抜けたということになるのだろうが、A.P.238に入って以降、【巨躯】の復活と襲撃とあわせダーカーとの闘いはますます激しさを増していた。

 

 これを異常と視るか、それともかくあるべくと捉えるかは、アークスでも上層部、もしくは人の上に立てる人間の特権であり末端の彼らに思考は許されない。ただ、命令があれば出撃し、明確な敵意を持って襲い来るダーカーをただ倒すしか無い。それを諦めた時は自らの死を許容するのと同義であるのだから。

 

 「お目覚めになりましたか?」

 アクシィは女性の声で目が覚める。採掘基地防衛により、直接制御(身体とメカを接続したうえで操縦、制御するマン・マシン・インターフェース)で試作兵器<ランス>を扱ったため、負荷が彼の頭脳体の許容を超えてしまったため気を失い、その後まる三日間眠り続けたあとだった。

 

 「ここは?」

 「フェオのメディカルセンターです。あなたのおかげでリリーパでの危機は脱しました。あなたには特別報奨と勲章が授与されると上層部からの通達です」

 「あのっ!あのエリアでの死傷者は!キャティア・イクストルさんは無事ですか?」

 「はい、キャティアさんは胸部に裂傷、それに肋骨を二本骨折の重症でしたが命に別状はありません。昨日再生槽を出られて、現在は病室でお休みになられてます」

 「よかった、あの、行ってもいいですか?」

 「だめです!あれだけの精神負荷が頭脳体にかかったのですから、あと一日は安静です!異常がなければ明日にでも退院になりますから」

 

――

 

 「退屈だ」

 キャティアは病室のベッドで不機嫌そうに横になっていた。機密と情報封鎖の関連で端末の機能も制限されており暇つぶしもできない。再生槽による処置で外傷は傷跡もなく完全に塞がったが、骨に関してはまだ完全ではないので医療ナノマシンによる処置を受けており、その間は安静が義務付けられている。つまり、今彼女にできることは寝るしか無い。

 

 「キャティア・イクストルさん、お客様です」

 「あ、はい」

 看護師が彼女に声をかけた。そしてその後ろから一人の女性が現れる。黒いビジネススーツの上に、<宇宙海軍大将>の階級章をつけた白衣を纏っている。つややかな黒髪に長身、豊満な肉体を持ち瞳はほとんど色素が見られない。悪意に満ちた偏見を持って表現するなら……魔女?否、蛇と形容する人間もいるだろうか。

 

 「貴女がキャティア・イクストルね」

 低くもなく、高くもなく、好意と冷徹さを併せ持つ声で語りかける。

 「あなたは?」

 「はじめまして、私はソフィア・イビム。海軍研究事務所の人間よ」

 「ソフィア・イビム大将閣下!!」

 キャティアは慌てて敬礼しようとするが右胸に痛みを感じうまくいかない。

 「あ、そのままで結構よ。傷の方もまあ、まずまずというところね」

 キャティアは大学時代に細胞・発生工学を学んだこともあり、彼女は憧れの人間の一人である。数々の医療技術の開発、戦術論、対ダーカー戦における兵器開発、設計など、彼女の技術者、研究者としての名声を知らないものは海軍にはいなかった。

 「は、はじめまして!わざわざボク…あ、いや、小官のためにこんな場所にいらしたのですか!大将閣下!」

 「まあね。例のダンタリオンでの不祥事以降アークスに下って、大活躍している元女性士官。海軍では結構話題になってるのよ、貴女」

 「恐縮です」

 「そんな頑張り屋のあなたへの激励と、あと一つ、私の仕事に一つ協力してほしいの」

 「はい、小官にできることであれば!」

 キャティアは憧れの女性を目の前にして緊張で鼓動が早まるのを禁じ得ない。

 「この前の採掘基地防衛戦で、貴女は超巨大ダーカー<ダーク・ビブラス>と対峙したわよね?元軍人である貴女の視点で教えて欲しいの。何か違和感、もしくは感じたことを私に教えて欲しいの」

 若干拍子抜けをしつつも、キャティアは口を開いた。

 「えっと…小官の主観ではありますが、かの個体にかかわらず、あの戦闘におけるダーカーの行動は異常でした。あのように統率がとれ、奇襲や挟撃を意識しつつ、曲りなりにも”戦術”を意識した行動をするダーカー種が存在するなんて」

 「ふむ」

 「かつ、かの超巨大個体に関しては、攻撃性や破壊衝動が何故か弱かった気がします。こと、物量による力押しをとる蟲型種であのような行動を取ることに違和感を感じましたね。様子を見るとか、タイミングを図るなど今まで小官にとって経験のない行動です」

 「なるほど」

 キャティアは熱っぽくかの戦闘の様子をソフィアに話す。ソフィアも本心から興味深そうに相槌をとり、マンツーマンで教授される学徒のような視線でキャティアの報告に耳を傾けていた。

 「ありがとう、参考になったわ。病床の身で長話させてしまってごめんなさいね」

 「いえ!小官も閣下とお話できて光栄であります!」

 「ところで……頑張る貴女へのご褒美ではないけど、私の推薦で海軍への復帰を検討させてもらっていいかしら?今は艦隊も研究事務所も猫の手を借りたいくらいだし、能力のある士官は一人でも多いほうがいいの」

 「え!……でも」

 キャティアは予期せぬ吉報への驚きと同時に相棒であるアクシィのことに思いを馳せた。

 「ああ、貴女の相棒……アクシィ・オーキド君だったかしら。今回の防衛戦での英雄さんね。大丈夫、その時は彼も一緒に、貴女の下で働いてもらえるよう配慮するわ」

 「それは…人事権への過度な介入では?」

 「大丈夫よ、アークスとしての戦闘ができる士官には同じくアークスの特務士官である副官をつけるのが慣例でもあるし、これは貴女と彼の能力や適性を考慮した合理的な人事だから心配はいらないわ」

 「はい…はいっ!!ありがとうございます!閣下!」

 「ま、一両日中…には行かないと思うし、しばらくはアークスとしてのしごとと二足のわらじになるだろうけど、それは仕方ないわよね。貴女に限らずフォトンを扱える人間はこき使われる運命なのかしら」

 キャティアは胸の熱さを抑えきれない。こんなに早く海軍に、星の海をまたにかける仕事、本当に憧れていた仕事に戻ることができるチャンスが来るとは思っていなかった。彼女は目の前の黒髪の淑女に心から感謝と憧憬の眼差しを送る。

 「さて、しばらくは休暇になるとは思うけど……今は身体を大事にね。あ、それと手土産のおせんべいは好きなときに頂いてくれると嬉しいわ」

 「はいっ!」

 「キャティア・イクストル。あなたには期待しています。もちろん相棒の彼も」

 

――やった…ボク、戻れるんだ!

 

 彼女は頬を緩ませ、差し入れの南部せんべいをかじる。

 

――

 

 「所長、お戯れが過ぎます」

 「そんなことないわ。現場の人間の視野って重要なのよ。数値的データで得られるエビデンスが最重要ではあるけど、感じたことや主観からのインスピレーションが進歩を飛躍させることは多々あるわ。それに……」

 「少なくとも、Type-Aはダーカーの持ち味である破壊衝動とマテリアルの精神がぶつかり合って個体戦闘ユニットとしては今のところ欠陥品ね。でも、彼女の戯言からもいくつかヒントを得たの。帰ったら試してみましょう。”マテリアルの材料”はまだあるわよね」

 「ええ、例の”虚空機関”総長から実験体の残余を受領しております。<<もう必要ないから自由に使え>>とのことです」

 「ふん、生臭い男ね彼は」

 「しかし、元少佐"I"を軍務復帰とは、何か意図がおありですか?」

 「あなたにそれを知る権利はあるのかしら?」

 「申し訳ございません」

 「いいわ、それよりもLデーが近い、第二、第三艦隊は所定の位置へ移動しているのかしら」

 「ええ、しかしよろしいのですか?特に虎の子の第三を傍観の立場に置いておくなんて」

 「予定に変更はないわ。今件に関して私たちは”何もしなくていい”の。アークス情報部、六芒の三に例のファイルは渡ったかしら」

 「つつがなく」

 「よろしい、彼なら私達の意図を把握した上で最良の行動を取ってくれるでしょうから。ただ、ルーサー君がご退場したあと、その後は」

 「ええ。<アイオーン>から拠出する潜伏情報員を増員しておきます」

 「それにしても……臭いところね、ここは」

 「C.I.S.Oの動向にも楔を用意しておきます」

 彼女と彼に付き従う金髪長駆のニューマンの男性の会話は、体内のインプラント装置と対電波・フォトン遮蔽装置に遮られ誰にも聞こえることなく進められた。

 

――

 

 「キャティアさん!キャティアさんっ!!」

 「あ、アクシィ久しぶり、ようやくお目覚め?」

 「よかったぁ!!本当によかったぁ!」

 アクシィは四日ぶりに合う相棒を潤んだ目で見つめ、抱擁を迫る。キャティアは上体をのけぞらせつつ

 「よせやぃ!ボクは肋骨がまだくっついてないんだ!やめなよ!」

 「よがっだ!!生きててよがっだああぁ!」

 「アクシィ!鼻水!」

 (もう……甘えん坊なやつだね)

 キャティアに兄弟姉妹はいない。なので、まるで弟のように振る舞うアクシィへ多少の気恥ずかしさを感じながらそれでも笑顔を向ける。今は彼と再開できたことが嬉しかった。その感情は、士官候補生時代にサバイバル訓練を乗り越えた後、フリゲートの脇を大出力陽電子砲がかすめた後、駆逐艦乗組員と死線を超えた後ともまた違っていたことに彼女は気付いていない。

 

 「あ、せんべい食うかい?」

 「はい!」

 キャティアは、ソフィアから貰ったせんべいのあまりをアクシィに差し出す。キャティアはピーナッツが入った褐色のせんべい、アクシィは黒ゴマが散りばめられたせんべいを盛大に音を立ててかじりつく。

 「キャティアさん、ぼくつぎそっち食べたいです」

 「うるさい、ピーナッツのほうはボクが食べるの!」

 「そんなあ」

 バリバリ音を立てているところに、看護師が入り

 「イクストルさん!おせんべい食べたら食べかすはちゃんと掃除してくださいね!再生処置は終わってるしそれくらいできますよね!」

 「あ?あーい、すいませーん、バリッバリッ」

 「そんなことより、お客様です」

 「また?今度は誰?」

 

 「キャティアちゃん、久しぶり」

 「シン…シンなの?」

 銀髪で、スマートに鍛え抜かれた均整の取れた体つき、なによりも優しさと厳しさを兼ね備えた男らしい視線をアクシィは見つめた。

 「採掘基地では大活躍だったようだね。キミが生還してよかった」

 「あ、あの…」

 「キミがキャティアの相棒かい?はじめまして、俺はシン、シン・マクガイヤー。そこのがさつなおねーさんの先輩で友人だ。よろしくな、少年」

 「アクシィ・オーキドです!はじめまして!マクガイヤーさん!」

 「シンでいいぞ、でもシンさんというのはよしてくれな」

 「……おい、がさつなおねーさんって何さ」

 アクシィよりも大きく、親しみを込めた手をにこやかに差し出すシンに対しアクシィは好感を感じる。握手して感じ取った、この人はきっと尊敬に値する男だと。

 

 「俺は海軍宇宙大学でキャティアちゃんの二年先輩でね。軍事教練でも何度かチームを組んだ。シュミレーターでは……そうだな、艦対艦戦闘では五分五分、機動兵器では俺の勝ち。陸戦や格闘戦ではキャティアちゃんの勝ち。運動神経ないくせに馬鹿力だからな」

 「おい!拷問されたいのシン!それに艦同士の戦闘ではボクのほうが勝利数多いぞ!」

 「あと、大学院で理学を専攻してたときも縁があってね、こいつは細胞・発生工学。俺はフォトン生物進化学をやってて……でも、キャティアは案外不器用で実験が下手クソでなあ」

 「ぐぬ……」

 「でも、スライド作成や発表は上手だったよな。いいセンスだ」

 「……ありがとうございますっ!けっけっけー!」

 アクシィはシンから伝えられる若かりし日のキャティアの話を興味深く聞いた。

 「キミはキャティアちゃんと一緒の部屋で暮らしているのかい?」

 「はい!」

 「げっ……!!」

 「料理……キミの担当だろ?」

 「なんでわかったんですか?」

 「キャティアちゃんはこう見えて実は料理は得意だ。レストランでのアルバイト経験もあるし、キャティアちゃんのつくるミートパスタやレタスのマリネは美味しいんだ。でもやってくれる人がいるとすぐサボる癖があって……」

 「キャティアさんのつくるパスタ……美味しそうですね!」

 「あと、キャティアちゃん、大食いだろう?痩せの大食いとはよく言ったもんだ」

 「キャティアさんのご飯の食べ方ぼく好きです!美味しそうに食べてくれる顔が嬉しくて!」

 「……」

 「あと、キャティアちゃんは」

 「それ以上アクシィに変なこと吹き込んだなら拷問しないで殺す」

 「おっといけない。つい悪い癖が。そうだアクシィ君。俺も喋りすぎて喉がかわいたし君たちもせんべいを食べて喉乾いただろう。飲み物を買ってきてくれ。アイスコーヒーを二つに、後はキミの好きなものを」

 「え、お金は」

 「俺のおごりだ。御見舞の意味もあるからな。採掘基地防衛の功労者をパシらせてしまうのは恐縮だが」

 「はいっ!行ってきます」

 アクシィは三人分のドリンク代をシンから受け取って病室を出た。

 

 「元気のいい、素直な子だな。きっといいアークスになるだろう、すすんで弱きを守る、味方や仲間を大事にする、ね」

 「ボクの内情あんなに話してアクシィが変に勘ぐったらお前の責任だぞ」

 「事実を話して何が悪いんだい?」

 「そ、そういうことじゃなくてっ!」

 「それに、あの子は勘付いたとしてもそれでキミへの態度を変えるような子じゃない。話をしてよくわかった。もっとも、キミと生活していればこれからひねくれた大人になるかもしれないがね」

 「知らんよ」

 心なしか、キャティアは胸に熱いものを感じる。過去、と言ってもつい三年前までの日々だが、眩しくも、加え気恥ずかしくも彼女の脳内に明確な像として再生されていく。充実していたかと言われればそうだったのかもしれない。だが、未来に対し希望で溢れていた。自分はなんでもできる。過去なんてどうでもいい。そんな日々だった。

 

 一分に満たない沈黙、そこで口を開いたのはシンだった

 「……すまなかった」

 「……」

 「俺は、キミにずっと謝罪したかった」

 「なんで謝る必要があるのさ」

 「俺は、キミが欲することをしてあげられる男でなかった。キミを苦しめた。本当に申し訳なかったと思っている」

 「……続けなよ」

 「あの時、あのときもだ。俺はキミにしてあげられることを理解することができなかった。キミを支えられる男でなかったんだ。そして…」

 「やめろよ。ボクの故郷ではな、そういうのを”はんかくさい”って言うんだ。もう過去の事、忘れなよ。お互いアラサーよ。もう過去の日々に対してグダグダ言い合って馴れ合う年齢でもないでしょう」

 「そうだね、すなまい」

 「一つだけ言わせてもらうと」

 キャティアはシンの目を真っ直ぐ見据える。

 「ボクは、あのときもそして今も、シンがすぐに"ごめん"とか”すまなかった”というのがホント嫌なんだ。何度も話したじゃん。忘れたの?」

 「すまな…あ、いや」

 「ま、それが、シンのいいところでもあるんだろうけどさ」

 「俺は今でもキミを大事な後輩であり、友人だと思ってる。そして」

 「やめなよ、それ以上言ったらボクはお前を本気で嫌いになる」

 「そうだな。よそう」

 再び沈黙

 「仕事、忙しいの?」

 「昨日まで、第一艦隊の駆逐艦<アルタイル>の艦長だった。来月には大佐に昇進らしいが、今度は巡洋艦を任されるらしい」

 「ふぅん。順調じゃん」

 「俺も、そしてキミも含め、若い連中を必要以上に持ち上げ使い潰そうってする上層部の思惑は気に食わないが、給料が増えるのは悪くないな」

 「まったく、違いないね、ふふっ」

 アクシィが部屋を出てから、初めて部屋に笑い声が響く。

 「キミはアークスとして働けてるみたいだね。相棒もいい子みたいで本当によかった。あの子ならキミに無理は絶対にさせないだろう」

 「そうかもね。ああ見えてあいつ、熱っぽいからね」

 「ひとつ真面目に言わせてもらう。友人以上の仲だったということに関わりなく、先輩の軍人、戦士として」

 シンは深刻な顔でまっすぐキャティアを見つめる

 

 「危ない時や辛い時は、相棒を頼れ」

 「あの子はまだ10代半ばの子供だよ!むしろ逆じゃん!ボクが守る立場だよ」

 「関係ないさ、いいなキャティア。辛い時はあの子を頼れ」

 「……忠告のつもりかい?」

 「これはアドバイス、年長者の老婆心さ」

 

 「戻りました!」

 「おかえりアクシィ君、喉がカラカラだ」

 キャティアは戻ってきたアクシィを直視するのに数瞬の葛藤があったが

 「遅かったね。コーヒーくれよ」

 「はい、どうぞ!」

 「キミもアイスコーヒーか。それもブラックで飲むんだね」

 「はい!これが一番コーヒーの美味しい飲み方だってキャティアさんが」

 「うん、いいセンスだ!キャティアちゃん、俺にもせんべい一枚もらえるかな」

 キャティアはゴマの南部せんべいを、自分はピーナッツのせんべいをかじる。バリバリと音をたてつつ、アクシィとキャティアの共同生活の出来事をときには笑顔で、時にはキャティアの悪態も交えしばらく楽しんだ。

 

――こんな兄さんがいてくれたらどんなに楽しいだろう、その横にキャティアさんもいてくれたら……

 

 「さて、明日は<アルタイル>での最後の仕事だ。惑星<リリーパ>近隣から艦隊そのものが新惑星<ハルコタン>近傍宙域へ移動になる。次に会えるのはいつになるんだろうか」

 「第一は遊撃部隊だから移動多いのはしゃあない。最も、船団<フェオ>も明日には惑星ナベリウス宙域に向けて超光速航行に入るみたい」

 「お互い任地は離れてしまうな」

 「<ハルコタン>へ亜空間バイパスが開通すればすぐだけど、まあ今はな」

 「じゃ、俺はこのへで退場するよ。キャティア、どうか元気で、次に会えるときまで、生き残れよ」

 「お互にね」

 シンはアクシィに相対し肩を掴み強く語りかける。

 「アクシィ君、いいな。キャティアちゃんを守ってやってくれ。俺とキミは友人になれたと俺は思う。だからこれは友人からのお願いだ。男が男にお願いをする意味はわかってもらえるな」

 「……わかりました。全力を尽くして」

 「いい返事だ、キミも生き残れよ!」

 

――

 

 「キャティアさん、顔が赤いですよ。熱でも出ちゃったのか、看護師さんを呼びますか?」

 「……」

 「キャティアさん?」

 「な、なんでもない!平気さ!それより、休暇もらってるんでしょ?」

 「はい」

 「地上に降りて夜釣りにでも行ってきたら?」

 「ここ、砂漠だらけの惑星<リリーパ>宙域ですよ……」

 「じゃ、じゃあレジャー区画でも使わせてもらいなよ!」

 「……?」

 アクシィは彼女がめったに見せない慌て様に首を傾げた。だが新しい、尊敬できる友人に出会えた余韻で、採光され、調整された心地よい、だが人工的に作られた夕日を見つめていた。

 

――

 

 「キャティアちゃん…アクシィ君…すまない」

 シンは乗艦<アルタイル>に戻る帰途、誰にも聞こえないように二人に懺悔した。

 「俺は……きっと地獄に落ちるだろうな。もっとも地獄が存在すればだが」

 

――

 

 <<まもなく本船は長距離の超光速航行に入ります。市民並びにアークスの皆さんは、加速完了まで所定に場所で待機していてください。加速中に所定場所より離れた場合は規定により罰せられます。加速開始は本日一一〇〇、巡航へ移行する時刻は一二〇〇を予定しております、なお>>

 

 超光速航行という場合は、船体自体をフォトンの空間歪曲フィールドで包み、進行方向に向けて前方を空間を収縮、つまり<ビッグ・クランチ>、後方を<ビッグ・バン>させることで、既存の四次元宇宙とは別の宇宙になった船体、もしくは艦隊を推進させる航法だ。発見者の名前を取り<インヘルト・ドライヴ>とも呼ばれるが、もっぱら超光速航行と呼ばれることが多い。この航法だと相対論の壁は容易に突破できる。とはいえ、フォトンの出力限界や通常空間との干渉との影響もあり、実験船で光速の50倍ほどが限界のようだ。もっとも、予め亜空間で構成されたショートカット用のバイパスパイルを通じて行われる<パーシバル・ジャンプ>も実用化されているが、これに関しては、限界質量や必要なエネルギー、更にはマザーシップによる膨大な演算処理が必要になるので、アークスのキャンプシップの移動をのぞいて原則禁じられている。宇宙艦隊の戦闘艦は、質量とエネルギー量、加え電脳の性能限界もあり、<パーシバル・ジャンプ>を行えないのが通常である。

 

 「さて、加速終わるまでなんもできないし、寝るかぁ」

 キャティアが贅沢な午前中の午睡を楽しもうとしたその時、端末、そして全ての映像媒体に六芒均衡の一、レギアスの姿が現れた。

 

 「聞こえるか?アークス諸君。六芒の一、レギアスだ。緊急事態のため、唐突な連絡になってしまったことを詫びる。混乱も必至だろう、故に、私から説明を行う」

 「へぇ、六芒の一のレギアスさんか。しかし、全端末を使っての演説なんて、何かあったのかしら、新しいダーク・ファルスでもマザーシップに現れたとか」

 

――

 

 「それでもなお、アークスの敵性存在だと、そう……判断された」

 「へぇ……あの、彼が……」

 「繰り返す、アークスがそう……決めたのだ」

 「ここに、六芒の一レギアスの名において、<絶対令>の行使を宣言する」

 

 「アークスに仇なす反逆者を……☓☓☓を、抹殺せよ!」

 「とはいっても、マザーシップは遥か数千光年先、ボクには関係が……」

 <<船内の全アークスに告げる。<リリーパ>バイパスパイルの緊急使用が認められた。全アークスは至急所定のキャンプシップに搭乗し、マザーシップ宙域に向かい命令を遂行せよ。繰り返す、至急……>>

 「あの、ボク、病床の身なんですが」

 <<これは演習ではない、繰り返す。これは演習ではない>>

 「あれ……え?」

 キャティアは、急に自分の思考が遠くなっていくのを感じた。傷の痛みは感じない。ただ、待ち焦がれた恋人の肉体を渇望するような、動物的、本能的な強い衝動を感じた。その後、彼女の自我は数千光年先に消えていた。

 

 彼女はラッピーの絵柄が描かれたピンク色のパジャマから、<ロマンバカマ>に着替え、愛用する<アクローケーン>を取り出す。身だしなみを整えることもなく、相棒であるアクシィの状況を思考するまでもなく、その足はキャンプシップ発進デッキに向かっていた。

 

――

 

 「さて、あなた最大の見せ場よ、ルーサー君。せいぜい限りある有機体の身体と、核酸で書かれた魂の身であがくといいわ。そう、これはあなたにとってはラストダンス、その後のカーテンコールにあなたが登場することはもうないのだから……ふふふ」

 

 「後は、しっかり働いてね、マザーシップ:シオンの作品である生体兵器の彼女、そして未来の英雄さん……」

 

最後まで読んでくれてありがとう!

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