【PSO2・航海日誌】【ショートストーリー】第二章 Purification work of justice 後編
はじめに・・・(注意事項)
※この記事は、PSO2(ファンタシースターオンライン2)の世界感に、著者:アクシィ・おーきどの独自見解、キャラクター設定などを組み込んだ二次創作になります。ゆえに、ファンタシースターオンライン2に登場する固有名詞、ストーリー、設定などの著作権は全て株式会社セガゲームスにあります
※原作はあくまでPSO2(ファンタシースターオンライン2)です。著者と読者様の間の原作に対する理解の相違、拙作の至らぬところなど感じられると思いますが、こちらに関しては、文責は著者:アクシィ・おーきどにあります
※無断転載並びに再配布は固く禁止します
※おかしなSF考証や、つっこみなど、固有名詞がおかしいなど多々気づくと思いますが、こちらも、文責はすべてアクシィ・おーきどにあります(セガは関係ないってことですよ!
★登場人物
アクシィ・オーキド:第一船団所属のアークス、キャスト
キャティア・イクストル:第一船団所属のアークス、ヒューマン
クレイオ・アドラー:第一船団所属のアークス、初陣でキャティアとアークスに助けられた新人アークス、ヒューマン
ハルナ・ラン:第一船団所属のアークス、クレイオのバディ、ニューマン
シン・マクガイヤー:宇宙海軍第一艦隊遊撃分艦隊、駆逐艦”アルタイル”艦長、中佐
※前篇はこちらです
では、本編は折りたたみます。推敲はしたけど、誤字脱字あったら…随時直します。
注意!微グロ描写あり!
A.P.230 オラクル海軍大学 理学部・生物工学研究棟・細胞工学研究室
「イクストル君、中間発表の準備は進んでいるかね?」
「あ、はい!先生、なんとかまとまりそうです。でも……今更ですが不安が」
「ん、なんだい?」
「胚性、もしくは体細胞由来の多能性幹細胞の分化誘導など、再生医療や発生工学、分子生物学からみると非常に古典的な研究に思われます。なぜこの時代にこれらの研究が活発に行われているのか。本当に私の研究テーマは意味のあるものなのでしょうか」
「アークス研究室の総長は研究員にこう言ったそうだよ。”科学者は学の価値を己に問うてはいけない”と」
「……はぁ」
「大丈夫、君のテーマはうちだけじゃなく、様々な船団政府付属の研究施設、企業で活発に行われているホットなネタだ。きっと発表は大成功するから安心しなさい」
「はい!頑張ります!ところで……」
「また試料の催促かい?うちの研究費はカツカツなんだ。贅沢はいけないよ」
「いえ、あくまで仮定の話なのですが、ダーカー因子、もしくはそれに準ずる属性のフォトンを正常な細胞、もしくは受精卵に照射したら何が起こると先生は考えますか?」
「唐突に……結構過激なことを聞くもんだね。それはいわゆる禁忌ってやつさ。私も自分のラボにダーカー因子のサンプルを置くのは……正直おっかないね」
「すみません」
「しかし……息抜きの思考訓練としては面白いね。イクストル君、君はどう考えるんだい?」
「個体レベルで、フォトンを内包、もしくは出力できない生物の場合は侵食核が出現し、最終的に肉体の再構築が行われ、ダーカー個体になります。ただこれを細胞レベルで行ったら……」
「ふむ」
「我々、人間の手でダーカーを、もしくはダーカーの性質を備えた生物を創る結果になるのではないでしょうか」
「随分突飛な考え方だね。まあ我々科学者も人間である以上、倫理は守らねばいけない。とはいえ……私も同じことを考えなくもないね。ふむ、まあそんなことより、急がないと間に合わないんじゃないかな?質問の準備も進めないといけないね」
「あ、すみません先生!ところで、このスライド、チェックをお願いできますか?」
――
惑星リリーパ採掘基地、エリア"ジョージ"。キャティアはモノメイトを一息で飲み干し、西の地平線を睨みつける。今までとは比べ物にならないほどの質量と密度を持った黒霞が迫ってくる。
<こちら砲兵隊、位置についた。これより支援火力投射を行う>
重砲の砲撃音と、フォトン炸裂榴弾や焼夷榴弾の炸裂音がこだまする。キャティアにとって絶望的な戦場はこれが初めてではない。【巨躯】撃退戦もそうだった。だが、首から胸のあたりを締め付けるような感覚に襲われている。彼女は自分の中で、恐怖と勇気がせめぎ合っている感覚を久方ぶりに味わう。
「なにあれ……あんなの聞いてないよ」
「ハルナ、大丈夫……大丈夫だから」
新人アークスであるクレイオとハルナは必死で闘志を震え立たせてはいるが顔面は蒼白だ。無理もないだろう。彼らはまだ10代、平和な世の中ならまだ学校に通い青春を謳歌する年代だ。
そんな二人を見つめるアクシィの心の中は何故か非常に落ち着いていた。否、恐怖や緊張、勇気や使命感と呼ばれる感情が何故か湧き上がってこない。緊張した顔を見せるキャティア、恐怖に怯える新人アークス、無理やり恐怖を押し込んでいるベテランアークスを醒めた目で見つめる。
<エリア”ジョージ”の皆さん、聞こえていますか?こちらは防衛司令部の監察官、イナンナです。作戦をお伝えします。落ち着いて聞いてください>
<当司令部には、緊急用として、対巨大ダーカー戦用のフォトン・イレイザー照射装置”ランス”があります。あなた達の分隊に”レンジャー”はいますか?>
「はい!アクシィ・オーキド、識別番号は……」
<結構、これより遠隔転送装置”リューカー”で貴方を司令部にお連れします。そこで貴方は”ランス”の照射準備をすすめてください。残りの皆さんは、照射準備が完了し、”ランス”が転送されるまでなんとか時間を稼いでください>
「は?俺たちに時間稼ぎして死ねっていうのか!今すぐ転送してそっちで遠隔調整しろよ!」
<交戦中に照射準備をすすめるのは非常に危険です。また、あくまで”ランス”は試作兵器。照射が可能なのは一度のみ。また当該地域に向かっているダーカーの動きから、照射直前まで存在を伏せておく必要があると判断します。”ランス”が失われた場合、攻撃を阻止する手段はありません>
「……撤退しようよ。逃げようよ。ラジエーターはここだけじゃないよ。一箇所くらい壊れたって」
<撤退は許可できません。また、採掘ラジエーターが破壊された場合、機器の加熱、暴走により爆発崩壊の危険があります。すでにエリア”フォックス”は機能を停止、これ以上拠点が失われれば、その爆発が連鎖し採掘基地そのものが消滅する危険があるのです>
「……素敵すぎる状況だね」
<時間がありません。これよりアクシィ・オーキドを転送します。残りの皆さんは防衛の準備に取り掛かってください。また、短射程フォトン粒子砲のロックを解除しておきました。皆さんの判断で活用してください>
その瞬間アクシィは白色のリングにつつまれその場から消えた。キャティアはその瞬間彼がどんな顔をしていたか確認することはできなかった。
「さて、もうひと頑張りしようか!なぁに、うちの相棒がすぐに大砲持ってきてくれるさ!」
キャティアは皆を鼓舞しようとしたが、同時に自分が恐怖していることを感じていた。
――ここが死に場所になるかもしれない、
――そんな情けない終わり方をしてたまるか!
「アクシィさん、こちらです」
司令部、とはいっても大型の指揮用キャンプシップではあるが、そこで彼は一息入れる間もなく格納庫へ案内される。そこには、塗装もされず鈍く銀色に輝く巨砲が待ち構えていた。
「これが、"X-PES-L02 ランス"です。理論上、一発の発射で【巨躯】眷属を10体は消滅させられます」
「ぼくにこれが動かせるでしょうか」
「貴方がキャストでよかった。直接制御が可能だと思います。これで時間がかなり節約できる。どうぞこちらへ」
直接制御、外部端子を通し、アークスの肉体と機器を接続することで、操縦桿やトリガー、煩雑な入力制御を排して機動兵器を操る技術であり、比較的古くから存在するマン・マシン・インターフェースの一つではあった。しかし、アークスではこのたぐいの技術が強く忌避される傾向もあり、現在のアークス成員はこのための外部接続端子を持たないことが普通だ。しかし、キャストは肉体の多くが機械であるため、メンテナンスや制御のために、直接制御にも可能な外部接続端子をもつ。もっとも、頭脳体や肉体、精神面に過大な負担を与えるため、その評判は非常に悪い。
だが、アクシィは不思議と、直接制御の訓練に初めて望んだ際の憂鬱な気持ちはない。淡々と準備をすすめる。その顔には緊張や恐怖はない。まるで、商業施設へ向かうのに、自転車に乗り込むときのような落ち着いた表情だ。
「直接接続を行います。準備はよろしいですか?」
「はい」
「コネクター、接続します」
アクシィの下腕部、首筋、そして耳に機器が取り付けられる。
「ネットワーク、オンラインへ」
その瞬間、アクシィは意識が遠くなり、刹那、身体が宙に浮く感覚に包まれる。どっからどこまでが自分かはっきりしない気持ちの悪い感覚だった。訓練ではなんどか体験したが決して気持ちのいいものではない。同時に、彼の身体は今やむき出しの金属色に覆われた巨砲になっていた。
アクシィの脳内に、”ランス”の電子回路の配置や制御方法が自然と流れ込んでくる。
(なるほど…エネルギーカートリッジが1発。つまり外したら後はない。トリガーはフォトンを固着させた撃鉄型機構……だからレンジャーか)
(照射時間は7.2秒……影響範囲……安全区域……)
「発射準備にかかります。カートリッジを薬室へ、フォトンの縮退処理開始。圧力上昇……カートリッジを薬室へ、エネルギーチャージ開始、完了まで192秒……」
――
「来た!」
アクシィをのぞく、エリア”ジョージ”の11人は武器を構える、今までと違い、前面にダガン、その後方にエル・ダガンとそれを生産するブリアーダ。外側をエル・アーダが飛び回る。
「理にかなった編成だね」
そして、その後ろ側に、黒いダーカーの群れに囲まれた黒い巨体が見える。巨大な蟲型ダーカーのようだ。
「散らばったらやられる、水際で食い止める!」
「おう!さあ来やがれ蟲共!」
「粒子砲、合図したら発射します!」
「さあ、みんな行くぞ!」
キャティアを含む8人が、”フォトンブラスト”を開放する。白色に輝く幻獣が現れ、ユニコーン型の幻獣がダガンの群れに飛び込む。クラゲ型の幻獣が光弾を撃ち出し、ブリアーダを撃ち落とす。同時に女神型の幻獣の手のひらが開き、一点に光の渦が生じる。大量のダーカーがそこに吸い寄せられていく。
「今だっ!」
クレイオが叫ぶ。ラジエーター:防衛拠点の脇に備えられたフォトン粒子砲が火を吹き、黒い塊に撃ち込まれる。初撃はうまくいった。だが問題はここからだ。
生き残ったエル・アーダが高速で襲いかかる。ブレイバーのベテランアークスがバレットボウで撃ち落とす。
「ギ・バータッ!」
フォースの女性アークスが氷系テクニックを放ち、複数のダーカーを氷漬けにする。そこに、パルチザン、ソード、ワイヤードランスの刃が襲いかかり、複数のゴルドラーダを切り刻んだ。
「ぐぎゃ!」
味方のアークスの脇腹にエル・アーダの毒針が穿たれ、苦悶の叫び声が聞こえた。
「レスタ!アンティ!」
キャティアが回復テクニックでカバーする。
「なんの、このくらい!」
回復テクニックを施したといえど激痛が走っているはずだ。帰還後は本格的なメディカルチェックが必要だろう。だがらといって、攻撃の手を休めればその先に待っているのは絶望だ。
「まだ来る!もうこないでよ!」
ハルナが叫ぶ。だが敵の勢いは衰えない。キャティアもウォンドを振るう。ゾンディールで敵の動きを阻害し、手近なダーカーのコアをウォンドで砕き、傷ついた味方がいれば、回復テクニックを施す。
――あの蟲型、超大型は動いていない。遠巻きに見つめているだけ。なぜ?
その瞬間、上空に巨大な影が迫る。
「ダーク・ラグネ!」
大型ダーカー、”ダーク・ラグネ”が、その巨体に似合わない跳躍力を生かし、拠点に襲いかかった。着地の衝撃、更に破壊性を伴うフォトンをばら撒き、11人のアークスを蹂躙する。着地点の真下にいた一人がその巨大な脚の下敷きになった。ダーク・ラグネの黒いフォトンの直撃を受けた一人は、顔の半分が焼けただれ、断末魔の悲鳴を発している。その直後、ダーク・ラグネの前脚…その大鎌が彼の上半身を吹き飛ばした。
「いやだぁぁぁっ!」
叫び声を上げたのは、クレイオだった。彼は大きく吹き飛ばされただけですんだが、その顔からは戦意がすでに感じられなかった。
「死にたくない!いやだ!帰りたい!」
ハルナはミラージュエスケープを駆使し難を逃れていた、そして
「クレイオの意気地なし。根性出せこのばか!」
「みんな…あんなになるんだ!ハルナも、キャティアさんも!」
クレイオはソードを投げ捨て、さっきまで共に戦っていた血塗れの下半身を指差した。それを見たハルナが胃の内容物を吐き出す。そこに、禍々しい剣を携えたゴルドラーダが迫ってきた。
金属音が響く。間一髪、キャティアは渾身のフォトンを込めたウォンドでその剣戟を受け止めた。そして薙ぎ払う。獲物を仕留める機会を逸したゴルドラーダが怒りの叫び声を上げる。
「よく見なさい!そう!死んだらああなる。ああなりたくなかったら……死ぬまで戦え!死ぬんでもかっこよく戦って死ね!」
クレイオとハルナに、シフタとデバンドをかける。だが二人は、キャティアの<<ケンランバカマ>>その右胸が、不自然に赤く染まっていることに気付いた。
「あのデカブツは大人にまかせなさい。キミらはそこのゴキブリ野郎を頼む」
キャティアと、生き残ったベテランアークス勢がダーク・ラグネに向かう。皆、すでに満身創痍だった。二人はなけなしの勇気を振り絞り、ゴルドラーダに相対する。
(アクシィ…早く来い!でないと!)
「おっさん、右足頼む!お姉さん、右足が潰れたら胴体乗っかってコアを!できる?」
「任せなお嬢ちゃん」
「わかったわ、貴女は?」
「奴を引きつける」
キャティアが、雷系テクニック”イル・ゾンデ”を発動させ、身体に稲妻をまとわせ、ダーク・ラグネの前にでる。ファイターの女性アークスが、ツインダガーを両手に敵の後方に回り込み、ブレイバーのアークスがカタナを納刀し力を込める。
――
そんな様子を、遥か高空から非情な眼差しで見つめる姿があった。
「Type-A 002は事前プログラム通り動いているみたいだな。ダーカー共の動きは?」
「誤差殆どありません。想定どおりです」
「Type-Aを使ったダーカーの人為制御、今のところは成功か。”コントロール・マテリアル”の状況知らせ」
「精神負荷がまもなくイエロー、そろそろ限界かと」
「分かった、002に最終工程を司令せよ。003は?」
「003は…信じられません。損耗指数が85、このままだと破壊されます」
「003は…ああ、例の”彼”がいる分隊が相手か。六芒均衡、いや、それ以上の実力を秘めたアークスのなかのアークス。まだ新人だと聞いたが」
「将来の英雄候補生さんのことですね。ダーク・ファルスとの直接接触で生き残り、六芒均衡にも強いパイプをもつという」
「ま、003は致し方ない。それより、003マテリアルの自己消滅シーケンスを開始せよ。問題は002だ」
「よろしいのですか?マクガイヤー中佐」
中佐と呼ばれた少壮の士官は、一瞬だけ顔をしかめる。
「構わない。彼女が私の後輩であること、そんなことは瑣末なことだ。今は任務中だ」
「アイ、サー」
カタナがダーク・ラグネの右前足に突き刺さり、その外殻を吹き飛ばした。苦悶の叫びを上げるダーク・ラグネから黒い稲妻が放たれ、彼の身を焦がす。
「がっ!……いまだやれ!」
キャティアが彼の後ろから回り込み、地面を蹴り飛び上がる、風属性テクニック”ザンバース”を展開し、叫ぶ!
「くたばれ!」
「うぉぉぉぉぉっ!」
緑色のカマイタチをまとった2本の刃が、大蜘蛛の死角から真っ逆さまに襲いかかる。ツインダガーがコアに突き刺さり、ザンバースの風が傷口で暴れ、赤黒い体液を当たりに撒き散らす。ダーク・ラグネは断末魔の叫びを発しながらフォトンに還っていった。
だが……
「超大型個体が動き出した……」
「これは、いよいよもってクライマックスだな」
「こっちは満身創痍、なんとも愉快な場面じゃないか」
傷だらけの3人は意地の悪い笑い声を上げる。生き残っている仲間が駆け寄り、スターアトマイザーを使用し回復を試みるが、肉体に蓄積したダメージは甚大だ。フォトンを練る際には精神状態が重要。肉体のダメージは精神を疲弊させる。
「お若いお二人も元気かい?」
「なんとか…」
「うう…ひっく…」
クレイオは大きな傷は見られなかったが、体中を青アザをつくっていた。ハルナは体中がホコリと砂まみれだが傷は見られない。超大型個体:ダーク・ビブラスが飛翔する、地面には生き残りのダーカーが蠢きこちらへ向かってくる。ダーク・ビブラスは低空で滞空し、赤い羽を広げフォトンを収束し始めた。
「うわあ…やっべ」
「粒子砲は?」
「あいにく弾切れだ!」
「お姉さま…どうしよう、私死にたくない」
ハルナが怯えた顔でキャティアにしがみつく。
「くそっ!あの野郎だけ生き残んのかよ!あのキャスト野郎!」
クレイオが涙を流しながら悪態をつく。
「うるせぇ!ボクだって……死にたかないよ!…っ!」
キャティアは自分の状況を軽く整理する。肋骨が数本、外傷もあり右胸から出血。フォトンを練る効率は半分以下。テクターは周りの味方がいて初めて実力を発揮するクラスだ。その反面、個での決め手に欠ける部分がある。周りの味方は満身創痍。
その時、交戦を再開して187秒後。巨大な銀色の鉄塊がダーク・ビブラスの目の前に現れた。同時に、前部の保護カバーが展開し、眩しい青白色のフォトンが溢れ出す。
「遅いぞ!アクシィ!」
――
「転送完了。エネルギーチャージ完了。目標……前方の超大型蟲型ダーカー、照射4秒前、さん…に…いち…ファイア!」
アクシィは、フォトンアーツを放つ要領で引き金を引く。その動作は、”ランス”の撃鉄機構を稼働させ、励起したプラズマ状のフォトン塊を収めたカートリッジを叩き、アクシィの「敵を砕く」という意識がフォトンに指向性を与える。そして、輝く光の槍がダーク・ビブラスに突き刺さった。
フォトン・イレイザーの光は、ダーク・ビブラスの頭部を削り取り、腹部の巨大なコアを灼く。ジジジッとフォトンがせめぎ合う音が聞こえ、コアと頭部を吹き飛ばされた巨体が地面に叩きつけられる。同時に、小型ダーカーの群れも霧散していった。制御していたダーク・ビブラスが失われたことで、フォトンが物質として顕現できなくなったのだ。
「間に……あった」
<任務、完了ですね。間に合ってよかった……本当によかった。ただちに救護隊を送ります。今しばらく待機を>
緊張が抜け、生き残った9人は歓喜の声を上げるでもなく、その場に崩れ落ちる。キャティアは銀色の巨砲に近寄り、気恥ずかしい微笑みで、”ランス”を軽く足で蹴りつけ悪態をついた。
「ばーか、来るのが遅いよ。妙齢の乙女が傷だらけだぞ」
返事はない?
「……アクシィ?」
――
「報告は読ませてもらったわ中佐。まあ、”彼”がいたことは誤算だったけど、少なくとも現時点では満足の行くデータがとれたわね」
「はっ、ですがダーク・ビブラスタイプの002と003を失いました」
「いいわ、”替わりはいくらでも作れるもの”。Type-Aは……そうね、前線の兵隊アリとしては優秀というのがわかっただけで十分。もっとも、六芒均衡の皆様やルーサーくんにぶつけるのはまだ早いってことね」
マクガイヤーは、執務室で通信スクリーンに向かい敬礼をする。スクリーンには画像はなかったが、そこから聞こえる声は、聞くものの印象に寄ってはひどく冷たい印象をうける澄んだ女性の声だ。
「マクガイヤーくん、ごめんね。こんな汚れ仕事お願いしちゃって、まあ、次はもっとマシな仕事をお願いするから、許してくれるかしら」
「お気になさらずに、閣下。同士として志をともにしたときから、小官の心は決まっております」
「期待しているわ、ところで……」
「はっ」
「あんな武器があるなんて聞いてなかったわね。ルーサー君の手配でもなさそうだし、脳内お花畑の六芒均衡:偶数番にできることではないわね。あ~あ、ほんとめんどくさいわ。分からなかったの?事前に……」
「申し訳ございません……」
「まあ私のほうから、G.I.社とサーペント社に楔を打っておくわ。それより、近いうちにルーサー君が動き出す、Type-Aのデータをくれてやったせいかお手頃な手駒も手に入れたみたいでご機嫌みたいよ、彼。確か…造龍…それに、テオドール…だっけ?まあどうでもいいわ。しっかし、長く生きてる割には応用力のない男ね、彼は」
「いよいよ、ですか」
「すでに手は打ってある。ルーサー君がいなくなれば、あとに残るのは正義の味方を気取るお子様達だけ……その後は私たちの時代なのよ。せいぜい正義の味方の皆様に頑張っていただきましょう」
「はい、宇宙を我ら人間の手に取り戻すために!」
通信が切れたあと、女性はデスクから古き文明に存在しただろう嗜好品:紙タバコをとりだし火をつける。長身で豊満な肉体、つややかな黒髪をもち、宇宙海軍の軍服をまとっている。階級章は”大将”。彼女の執務室には、時代錯誤にも感じられる紙媒体の学術書が所狭しと積み重なっている。それらにはオラクルの人たちが知らない言語で書かれた書物も少なくなかった。
「馬鹿な連中、ほんと、生臭くてじめじめして不快な生き物たち」
――
「このクラスの兵器の直接制御は頭脳体にたいへんな負荷がかかります。その負荷に耐えきれず、気絶してしまったようです。ま、ぐっすり眠ってしまっているというほうが正しい表現でしょうが」
「そう……あのバカ。遅いんだよ。あいたた……」
「肋骨が3本折れています。船団に戻り次第再生処理をしますが、外傷も含め全治2週間というところですね。おとなしくおやすみになることです」
「ありがとう、ドクター」
救護キャンプシップで彼女は応急処置をうける。今回も生き残った。【巨躯】来襲以後、アークスにとっては過酷かつ大規模な戦いが頻発している。今回も二人の仲間が死んだ。次が自分ではないという保証はどこにもない。面識のあるなしにかかわらず、目の前で人が死ぬのを見るのは、慣れてはいても決して気持ちの良い物ではなかった。
ただ、アクシィがあのように血塗れでころがる姿は見たくない。自分がああなってアクシィに見られることはしたくない。それだけは確かだった。すこし視線を上げると、クレイオ、そしてハルナが寝息を立てている。彼、彼女に関しても死んでほしくはない、人生の楽しみをより多く味わってほしいという気持ちは間違いない、だがアクシィに対してのそれと噛みしめる感覚が異なる。
「……なんか、へんな子だね。アクシィは」
程なくして、彼女は眠りについた。
――
惑星リリーパ採掘基地:エリア”ジョージ”
「間に合いましたね、中佐」
「……ああ」
「しかし、こっぴどくやられましたな」
「……そうだな。とにかく、霧散していない”部品”を滅菌、焼却処分せよ。それと、コントロール・マテリアルの残骸は細胞一つも残すなよ」
「アイ・サー」
「君も哀れなやつだな、まったく、世知辛い世の中だ」
マクガイヤーの視線の先には…乾ききった血とピンク色の肉塊、焦げ付いた肉の塊がまとわりついた、かつて”ヒト”であったタンパク質の塊が煙を立てころがっていた。
※独自設定の補足!
X-PES-L02 ランス
対巨大ダーカー用のフォトン・イレイザー照射器となってるけど、ぶっちゃけ!採掘基地防衛:終焉のラストにでてくるアレのプロトタイプです。カートリッジは1つで1回ぶっ放したら終わりというロマン砲。今回はアクシィが乗り込んで制御しましたが、関節制御、外部からの制御なら、間に合わなくてきっとみんな全滅してましたね。
この戦訓を生かして、PES-L03”トライデント”は、カートリッジを3つに分割、かつ12人のアークスによる同時制御で信頼性がぐ~んとアップ。ダークファルス・アプレンティス・ジアにも通用する兵器になったってことなのだ!
最後まで読んでくれてありがとう!
(もしよかったら応援よろしくね)